京都地方裁判所 昭和36年(ワ)454号 判決 1963年9月19日
原告 株式会社北陸銀行
事実
銀行より為替手形の保証責任を問われた被告らは、手形取引約定書による保証の範囲は、主たる債務者が直接銀行より割引を受けた手形のみに限定される、と主張し、更に錯誤の抗弁を主張した。
しかし、同一当事者間の同一手形取引約定書に基く別の為替手形金請求事件において、被告敗訴となつたためか、被告らは本件では立証をしなかつた。
右別件判決(京都地裁、昭和三三年(ワ)第七六二号為替手形金請求事件、昭和三六年六月一五日判決)中、参考となる部分はつぎのとおりである。
「原告は、被告会社において、振出、引受、裏書もしくは保証した諸手形に関し、同会社が原告に対し負担する一切の債務につき、被告両名が連帯保証する旨約したので、本件為替手形金についても被告両名に保証責任がある旨主張するのに対し、被告両名は、被告会社が原告より割引を受けた手形に関し、負担する債務についてのみ、保証することを約したに過ぎないから、本件各為替手形金については保証責任はないと主張して、これを争うので、被告らの保証債務の範囲について検討することとする。
(証拠)によると、原告銀行においては、手形取引を開始するに際しては、予め用意してある手形取引約定書および取引約定書によつて、取引当事者およびその保証人との間に取引契約をなすこととなつていることならびに本件の取引に際しても被告会社代表者である被告小嶋信二と同会社専務取締役である被告桑原三千雄は、原告銀行係員の提示した手形取引約定書(甲第五号証)および取引約定書(甲第六号証)によつて、それぞれ、被告会社を取引当事者、被告両名を連帯保証人として取引契約、保証契約をなしたことが認められる。
そして、右甲第五、六号証によると、被告両名が保証をなした債務の範囲は、被告会社が原告より割引を受けた手形に関し負担する債務に限らず、それよりも広く、被告会社において、振出、引受、裏書もしくは保証した手形に関し、同会社が原告に対し負担する債務に及ぶものと認められるから、被告会社が引受けをなした本件四通の為替手形についても、被告両名は保証責任を負担することが明らかである。
もつとも、被告本人両名の各尋問の結果によると、被告両名は、右甲第五六号証につき、十分内容を検討せず、に、署名したものであることが認められるが、本件保証契約は前認定のとおり、右各取引約定書を作成することによつて、原告と被告両名との間になされたものであるから、前叙事実によつても、被告両名と原告との間に右各約定書記載内容の契約がなされたことを否定することはできず、又、(証拠)によると、原告銀行との間に右と同様の約定書にもとずいて、手形取引契約および保証契約をなしていた訴外富士商事株式会社の関係者は、右契約によつて当事者および保証人に責任が生ずるのは、訴外会社が原告銀行より割引を受けた手形に関する債務に限ると解していたことが認められるが、この事実によつても、前叙認定を左右するに足らず、他に以上の認定を覆すに足る証拠は存しない。
そこで、被告両名の錯誤の抗弁につき考察するに、この点につき被告人小島信二は、「自分は、約定書を一寸手にとつてみただけで甲第五号証の最初の部分は読んだが他の部分は読まずにこれに署名したのであるから、本件保証は被告会社が原告より割引きを受けた手形についてのみ責任があると思つていた。」旨、被告本人桑原三千雄は、「自分は老眼鏡を忘れていたので、約定書の内容は読めなかつたし、その内容の説明を受けていないで、右書面は被告会社の手形割引契約だと思つていた。自分は個人としては、保証したつもりはない。」旨、それぞれ供述しているが、前顕甲第五号、六証によると、その手形取引約定書の冒頭には、三号活字をもつて二行にわたり明瞭に「私の振出、引受、裏書保証した手形で貴行が現在並びに将来取得されたものに対して左の条項を約定致します。」と記載してありそれらになされた被告らの署名も、その字の大きさは、右活字と左程に差がないことが認められ、この事実と弁論の全趣旨による被告らは、当然、右冒頭の文字を読み、これが単に被告会社と原告間の手形割引の契約でないことを了知し且、本件保証契約の趣旨を十分理解していたと認められるから被告本人両名の右供述部分は、俄かに信用し難くこれをもつて、被告らの本件契約に関する錯誤を認定することはできないし、他に被告ら主張の錯誤の事実を認定するに足る証拠は存しないので、被告らの右抗弁は採用できない。
そこで、被告の公序良俗違反の抗弁につき進んで検討するに前叙認定の各事実によると本件保証契約は、被告会社と原告との間の手形取引契約から生ずる不確定な債務につき継続的になされる保証であると解されるところ、その保証責任につき限度額が定められていないことは当事者間に争いがないから、被告名においては契約当初において予想もしなかつた過重な責任を負う虞がないとはいえない。しかしながらかかる危険は、当事者間において、取引の慣行と信義則にしたがつて除去されるべきものであつて、右のような危険があるからといつて責任限度額の定めのない継続的保証が、それ自体公序良俗に反し無効であるということはできず被告両名の右抗弁も、採用できない。」
理由
(前略)
成立に争ない甲第八号証によれば、冒頭に「私の振出・引受・裏書・保証した手形で貴行が現在並びに将来取得されたものに対して左の条項を約定致します」と記載され、「第十条本約定による債務については保証人互に連帯し且つ約定主と連帯してすべて履行の責に任じます」と記載された手形取引約定書と題する書面に、被告会社代表取締役の約定主としての記名捺印のつぎに、被告小嶋、同桑原が連帯保証人として署名捺印している事実が認められ、同被告らは、昭和三一年一〇月三一日、被告会社が原告より割引を受けた手形のみに関してではなく、被告会社が振出・引受・裏書・保証した手形で原告が現在並びに将来取得するすべての手形に関し、原告に対し被告会社が負担する債務について、連帯保証をしたものと認めるのが相当である。
被告小嶋、同桑原は、「被告会社が原告から割引を受けた手形の償還義務についてのみ保証する意思で本件保証をした。」と主張するけれどもこれを認めるに足る証拠なく、同被告ら主張の錯誤の抗弁は採用できない。
(後略)